日時 | 2015年10月1日〜4日 |
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朝からいくつかの会場にて、獣医師向けの画像診断と腫瘍をテーマとした講義とpara-professional(テクニシャン、動物看護師)向けの猫の扱い方や腎疾患、エマージェンシーの管理に関する講義が開催されました。
http://www.catvets.com/public/PDFs/Education/2015/2015-Conference-Agenda.pdf
いくつか参加した講義の中で、学会3日目と4日目に参加した講演について簡単にご紹介します。
【学会3日目】
学会3日目のTICA協賛の猫を実際に使ったpara-professional向けの講演は非常に印象的でした。Dr.Ilona Rodanの講義Understanding the Cat &Feline-friendly Handling part 1,2では、TICA協力のもと実際の猫を用いて扱い方のコツを先生の経験を交えて非常に分かりやすく解説していました。診察に適したキャリーとして、無理に猫を出さなくとも、そのまま膝の上にのせて診察することもできる上部取り外し可能な物が理想的であると紹介がありました。これは、日本でも広く認識されるようになってきているケージのタイプですが、ひざにそのままのせた状態で診察できると言う点が興味深かったです。
猫のストレス刺激や恐怖行動を理解するために、猫の視点でケージに入れられ動物病院を受診するまでの様子や様々なストレス要因について動画を用いた紹介があり、自分自身に置き換えてみるといかに病院に行くことが"非日常的なイベント"であり且つ"恐怖体験"であるかを痛感しました(図:抄録改変)。猫の恐怖行動(Fear Response)として、3つのFが現在広く知られています。Flee逃走、Freeze硬直、Fight攻撃。この恐怖行動を理解することは、個々に適した対応をするためにも必要です。
アメリカでは、獣医師や動物看護師をゾンビに例えて説明すると伝わりやすいようで、日本人には少し馴染みのない表現でしたが、我々人間がゾンビやお化けのような怖いものに出会った時、あるいは身の危険を感じた時の行動が猫の3Fのいずれかに当てはまるのではないでしょうか? 動物病院における猫の扱い方次第でストレスを緩和することができるとした上で、それでも扱いが難しい患者さんには、アメリカではガバペンチン50〜100 mg/catを受診1.5〜3時間前に投薬してから来院するよう指導することが多いとのこと。この後、オーストラリアや英国の猫専門医に尋ねたところ積極的にガバペンチンを用いることはないとのことで、すぐに薬物を用いるところが合理的且つアメリカらしい印象を受けました。このように国際学会の情報が国内の状況や需要に必ずしも合致するとは限らないため、国際学会出席において国よって考え方や相違点があることを念頭にいれておく必要があると認識した良い例でした。
【学会4日目】
Dr.Greg Ogilvie の「秘密兵器:担癌動物に対する不飽和脂肪酸の効果(The Secret Weapon: Polysaturated Fatty Acids and Cancer Advances for 2015)」の講演では、演者の話術と独特の世界観に圧倒され、聴講中も何度も全員立ち上がり聴講者全員でセリフを唱えたり、身体を使ったりと、セミナーを聴いているというよりも参加型のイベントに来ているかのような錯覚に陥りました。
一般にがん悪液質の栄養管理に関して、腫瘍細胞は炭水化物をエネルギー源として利用する一方で、脂肪をエネルギー源として利用しないことから、タンパク質含有量とカロリー密度、嗜好性を維持しつつ炭水化物を制限した食事が理想的であるとされています。一方で、猫における有用ながん患者に対する栄養管理は未だ明らかではなく、食欲が減退している症例をいかに削痩させずに給食(あるいは給餌)を続けられるかが重要なポイントになります。食事を与えるための工夫としてOgilvie先生は下記のようなことに注意しているようです。
●人肌に温める、疼痛管理、吐気を抑える
●脱水の補正(2〜3%の脱水でも食欲減退)
●食欲増進剤:シプロヘプタジン 2-4 mg q12-24 h po (毎日or 隔日)
ジアゼパム 0.05-0.1 mg/kg iv bolus
●チューブフィーディングを考慮
また、不飽和脂肪酸には不飽和結合の部位(図)によってω3脂肪酸(例:EPA、DHA、α-リノレン酸など)とω6脂肪酸(例:アラキドン酸、リノール酸)がある。
※EPA、DHAは魚油、α-リノレン酸は亜麻仁油に多く含まれる
「犬を用いた研究が多いが、ω3脂肪酸とアルギニンの補給によって犬と猫の鼻腔内腫瘍の放射線障害(皮膚障害)が軽減でき、さらに血中の乳酸上昇を正常化したことが報告されている。こうした研究データからも、食事からω3脂肪酸をより多く摂取し、且つ炭水化物摂取量を抑えることが担癌動物の代謝に適しているばかりでなく、抗がん剤や放射線治療の副反応を軽減するのに有効であることが示唆されている。一方でω3脂肪酸の補給量の上限に関しては、未だ定まっていない。」など、講演を聴いて、不飽和脂肪酸を用いた猫の悪液質管理に関して明らかでないことが未だに多いことを再認識しました。悪液質の猫(犬も)に対する有効な手立てが一日も早く見つかればと願うばかりです。
学会全体を通して感じたこととして、猫だけに特化した学会においても、猫の扱い方から取り上げているところを見ると、決して米国が先進的と言う訳ではく、世界的に猫に対してより良い環境で診療を行うためにどうすべきか考えられているのが現状です。国内においても様々な学会やJSFMセミナーなどで猫に関するトピックスが取り上げられるようになり、以前よりも情報を入手しやすい環境になってきていると感じています。国際学会に参加することで、世界の動きやトレンドをいち早く知ることができ、また気さくな先生方が多いため気軽に交流を深めることができるのも参加するメリットです。是非、マルタ島(通称猫の島)で開催されるISFMの年次大会(2016年6月29日〜7月3日、テーマ:GI disease & Orthopaedics)への参加を検討されてみてはいかがでしょうか?
http://icatcare.org/isfm-congress
(文:上田綾子)
2015年10月1日から4日まで、米国サンディエゴでAmerican Association of Feline Practitioners (AAFP) 2015 Conferenceと第3回World Feline Veterinary Conferenceが同時開催されました。初めてサンディエゴに行きましたが、成田からの直行便があって、とても便利でした。また、街はとても綺麗で、私の目には比較的安全な街に映りました。
さて、去年同様、受付に全参加者の名簿が張り出してあり、学会の参加者総数は600人あまり、アメリカ、カナダを中心にヨーロッパ、南米、アジア・オセアニアからの出席もありました。日本からも何人かの参加者があり、団体で参加されていた先生方もいらっしゃったようですが、まだまだ日本からの参加者が少ないと感じましたよ。
今回のメインテーマはDiagnostic Imaging and Oncologyですが、Pre-conference dayは、一つの会場で慢性腎臓病、猫の死、栄養学上の論争事項、流行感染症のセッションがありました。翌日から3日間にわたって、1会場あるいは2会場同時進行でセッションが組まれており、 1日目と2日目の午前中までは、猫の全身にわたるX線検査と超音波検査、CT、MRIについて、2日目の午後からは2日目は猫の悪性腫瘍に関する診断、治療の最新知見についてのセッションがありました。内容ですが、参加しているのが、臨床獣医師中心と言うこともあって、明日から使える最新情報満載でした。
私が聴いたセッションの中からご紹介しますと、まず、Pre-conferenceで印象に残ったのは、アメリカ、カナダ、ヨーロッパのIDEXXで測定が開始されている腎機能の新しい検査項目、Symmetric Dimethylarginine (SDMA) の話題で盛り上がっていました。研究が進めば、面白い検査項目になると思われます。また、栄養学では、慢性腎疾患の患者に給食するタンパク量についての講演がありましたが、ご存じの通り、低タンパク食を給餌するのは良いけれど、どのくらい制限すれば良いか、ステージによって考えなければならないこと、未だに賛否両論の部分が多いことに驚きました。
2日目からは1会場の時間帯と2会場の時間帯がありましたので、同時進行の場合には、片方のセッションしか聴けませんでした。私は超音波検査のセッションに参加しましたが、いくつか「ほほぉ」という事項もありました。例えば、胸部超音波検査では、猫を立たせたまま保定者のお腹のラインに沿って弓なりにすると、面で保定することにもなりますし、肋間が少し広がりますよね。目から鱗でした。それから、最近の若い先生方はX線検査そっちのけで超音波検査に行くことが多く見受けられますが、やはりX線検査と超音波検査を併用して、トータルに診断するという私の考え方を後押ししてくれるような内容の講演もありました。
3日目からはOncologyでしたが、悪性腫瘍全般に対する概説、診断、ステージング、治療、サポートケア、悪液質に対する対応、QOLの考え方、飼い主とのコミュニケーション、抗がん剤の使い方、腫瘍を診断治療する上でミスをしやすい点とその避け方などについて、基礎的な事項のブラッシュアップが中心でした。また、抗がん剤については、現在使用されている分子標的薬、イマチニブ、マシニチブ、トセラニブの使用状況やこれまでに分かってきた知見につての講演があり、即臨床に役立つ情報を得ることができました。変わったところでは、「開業専門医の認定を取りましょう!!」というセッションもあり、論文の作り方、書き方、指導医の選び方等の講演もありました。
海外の学会に行くと、他の国の獣医師と友達になるのも一つの楽しみです。2014年にインディアナポリスのAAFPで友達になった韓国人獣医師との再会や今年はランチで隣になったDr.Ken Lambrechtと彼の相棒猫(Bug)と交流することができました。驚いたことに彼はBugとどこへでも一緒に行っているらしく、講義室はもとより、展示場へも同行し、ランチも一緒に食べていました。このBug、Kenのジョギング中には後からついてくるようで、Kenとサンディエゴ観光もしたとのこと、ほぼノーリードだったそうです。可愛いですねぇ〜。
講義室へ猫を連れて行っても、誰も文句を言わない。それどころか、Bugを見て、触って、みんなが笑顔になる。さすが、猫好き獣医師の集まりという感じで、ゆる〜く、とても楽しい学会でした。
2016年、何とか調整して再会したいと思っています。どうでしょう、先生方、11月3日から6日の4日間、Washington, D.C.で「猫」しませんか??
(文:難波信一)