日本の獣医学の歴史を紐解くと、かなり昔、それも明治時代から猫の獣医学は存在しており、戦後は東京大学を中心として猫の研究も行われていました。すなわち「猫が好き」であること、「猫はちょっと違う」ということから、猫に特化した研究と臨床も存在していたことは事実です。しかしながら今日に至るまで、体系的に大学教育において猫医学を一つの学問として教えられる機会はなく、本来であれば獣医師は習得しているであろう“暴れる猫の扱い”や“ストレスを与えない工夫”といった基本的なことを学んできていないのです。その一方で、日本人気質の器用さ故に、何となく「猫を診る」ことができてしまっているのが現状ではないでしょうか?
アメリカやヨーロッパで猫を特別に考えるようになったのは、大動物と犬を中心とした獣医学の後です。そういった意味では、アメリカでも猫医学の発展は遅れていたのでしょう。私の師であるNiels Pedersen博士は、猫の病気を研究し、猫の内科学を教え始めた先生のお一人です。現在アメリカではAAFP(American Association of Feline Practitioners)といった猫に特化した歴史ある学会も存在し、さらには動物種ごとの専門医であるFeline Medicineの専門医も確立しています(Diplomate ABVP)。ヨーロッパでも同様にして、isfm(International Society of Feline Medicine)といった国際的なチャリティ団体を主体として猫医学は発展しています。
こうした中で、アジアにおける猫医学は特に遅れていると言えるでしょう。これまで猫の飼育がほぼ皆無であったアジア近隣諸国(韓国、台湾、中国など)がアメリカやヨーロッパ主導の教育を取り入れていく中で、我々もリーダーシップを取りながら、そして共に高めあっていく必要性というのを強く感じています。国内外の猫医学の底上げだけでなく、結果として猫とその家族が来院しやすい動物病院づくりもまた大切で、これらを目的としたisfmが推奨している国際的水準に即したCat Friendly Clinic (CFC)は今後猫のご家族の方にとって道しるべとなり得るでしょう。
そこで、猫医学の発展の貢献と猫とその家族が来院しやすい動物病院を普及させるという共通の強い想いの下、猫好きな・猫のことを想っている人が一同に集まり、isfmの公式な日本のパートナーとしてJapanese Society of Feline Medicine (JSFM, ねこ医学会)を立ち上げる運びとなりました。
今後われわれの活動がわが国の猫医学の発展に寄与し、さらにアジアならびに国際的リーダーシップを担える優れたものとなること、何よりも猫やそのご家族のためにも来院しやすい病院が少しでも増えていくことを願っています。それがわれわれJSFM一同の願いでもあり、われわれの活動の推進力でもあります。